借金返済|代表取締役の放火で火災保険は下りるのか?

24,29
経緯
郡山

主文

原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡村泰郎,同浜岡峰也,同堀内康徳及び同山本健司の上告受理申立て理由について
1 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 有限会社甲(以下「訴外会社」という。)と上告人は,平成元年6月16日,次の内容の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
ア 保険の種類     火災保険
イ 保険期間       平成元年6月16日から同11年6月16日
ウ 保険金額       3000万円
エ 保険の目的     大阪府箕面市甲a丁目b番地のc所在の木・鉄骨造瓦亜鉛メッキ鋼板葺3階建店舗事務所(以下「本件建物」という。)
オ 被保険者       訴外会社
カ 免責条項       保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときは,その理事,取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない(以下,この条項を「本件免責条項」という。)。
(2) 被上告人は,昭和60年3月25日,訴外会社と信用組合取引契約を締結した。
(3) 訴外会社は,被上告人に対し,平成元年7月7日,信用組合取引契約に基づいて現在及び将来負担する債務を被担保債務とし,極度額を4億0800万円と定め,訴外会社が本件保険契約に基づいて有する債権に質権を設定し,同日,上告人の承諾を得た。
(4) 被上告人は,上記信用組合取引契約に基づき,平成4年6月30日,訴外会社に対し,4億1000万円を以下の約定で貸し渡した。
ア 最終弁済期限    平成34年6月5日
イ 弁済方法       平成4年7月5日を第1回として,以後,毎月5日に元利均等で315万2080円ずつ分割して弁済する。
ウ 利息          年8.50%
エ 利息支払期     平成4年7月5日を第1回として,以後,毎月5日に1か月分を後払いする。
オ 期限の利益の喪失 訴外会社が破産宣告を受けたとき
(5) 訴外会社は,平成5年7月23日午前11時,大阪地方裁判所で破産宣告を受け,乙弁護士が破産管財人に選任された。
(6) 本件建物は,平成6年3月31日に火災(以下「本件火災」という。)により全損した。
本件火災は,破産宣告当時,訴外会社の代表取締役であった丁(以下「丁」という。)の放火によるものであった。
なお,本件火災当時の本件建物の価額は2369万5000円である。
(7) 被上告人は,本件火災当時,訴外会社に対し前記貸金につき4億0716万4615円の残元本債権を有しており,平成8年2月28日に前記質権に基づく取立権の行使として,上告人に対し,保険金3000万円を請求した。
2 本件は,訴外会社の上告人に対する本件保険契約に基づく債権につき質権を有する被上告人が,上告人に対し,保険事故発生による保険金3000万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
上告人は,本件火災は,保険契約者兼被保険者である訴外会社の代表取締役丁の放火によるものであり,取締役の故意による事故招致であるとして,本件免責条項に基づく免責を主張している。
3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を棄却した第1審判決を変更し,被上告人の請求につき,2369万5000円とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
本件免責条項では,「取締役」が,保険契約関係にかかわり得る者であり,あるいは保険の目的を維持管理すべき立場にあり,保険の利益を受ける者であることが基本的な前提とされていると解される。
会社が破産により解散した場合には,その法人格は破産による清算の枠内で存続するにすぎず,会社財産の管理処分権は破産管財人に専属することになる。
そして,従前の取締役は,会社の破産により当然退任すると解するとすればもとより,一定の限度で取締役の地位を保持すると解するとしても,保険契約関係や会社財産の管理処分にかかわる余地がなくなる。
したがって,従前の取締役は,会社の破産によって当然にはその地位を失わないと解するとしても,本件免責条項が前提とする「取締役」とは,その性格が著しく異なるものになり,取締役という言葉で普通に理解される立場の者とも著しく異なるものになる。
本件保険契約の当事者の意思は,このような従前の取締役は,本件免責条項に規定する「取締役」には該当しないとするところにあると解するのが相当である。
したがって,本件においては,本件免責条項の適用はない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
商法641条は,損害保険において,保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失により生じた損害については,保険者は,てん補責任を免れる旨を定めているが,その趣旨は,保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって保険事故を招致した場合に被保険者に保険金請求権を認めるのは,保険契約当事者間の信義則に反し,又は公序良俗に反するものであることによるものと解される。
本件免責条項は,同様の趣旨から,保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害についての保険者の免責を定めるとともに,保険契約者又は被保険者が法人である場合における免責の対象となる保険事故の招致をした者の範囲については,前記のとおり,その括弧内において,「その理事,取締役又は法人の業務を執行するその他の機関」と定め,理事,取締役の地位にある者については,業務執行権限の有無や保険の目的物を現実に管理していたか否かなどの点にかかわりなく,例外なく免責の対象となる保険事故の招致をした者に含まれることを明らかにしている。
本件免責条項が,上記のとおり,保険契約者又は被保険者が法人である場合における免責の対象となる保険事故の招致をした者の範囲を明確かつ画一的に定めていること等にかんがみると,本件免責条項にいう「取締役」の意義については,文字どおり,取締役の地位にある者をいうものと解すべきである。
そして,【要旨1】有限会社の破産宣告当時に取締役の地位にあった者は,破産宣告によっては取締役の地位を当然には失わず,社員総会の招集等の会社組織に係る行為等については,取締役としての権限を行使し得ると解されるから,上記「取締役」に該当すると解するのが相当である(なお,最高裁昭和42年(オ)第124号同43年3月15日第二小法廷判決・民集22巻3号625頁は,株式会社が破産宣告とともに同時破産廃止の決定を受けた場合において,従前の取締役が当然に清算人となるものではないことを判示したもので,本件とは事案を異にする。)。
このような見地に立って本件をみるに,【要旨2】前記のとおり,本件火災は,本件保険契約の保険契約者である訴外会社の取締役の地位にあった丁の放火によるものであり,当時,訴外会社は破産宣告を受けて破産管財人が選任されていたが,丁は,依然として,取締役の地位にあったのであるから,丁の放火による本件建物の焼失は,本件免責条項にいう取締役の故意による事故招致に該当するものというべきである。
5 そうすると,本件において上告人の免責を認めなかった原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。
論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。
そして,前記説示によれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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